第21章
海を見た日
それまで山と川しか知らなかったシンが、初めて海を見た。
どこまでも続く水を前に、シンは長い間立っていた。
アラが言った。
「でかいな。」
キヨは何も言わなかった。
ただ、目を細めて水平線を見ていた。
シンは海を見ながら思った。
自分が知っている世界は、どれほど小さいか。
自分が正しいと思っていることは、どれほど狭い場所で作られたものか。
しかし同時に思った。
小さくても、その場所で根を張ることに意味がある。
海は広い。しかし海には、村がない。
人が生きるのは、小さな場所である。
シンは海に向かって、小さく頭を下げた。
アラが笑った。
「何に頭を下げているのか。」
シンは言った。
「神に。」
アラは言った。
「海に神がいるのか。」
シンは言った。
「海にも、山にも、風にも、お前の中にも、神はいる。マツに教わった最初のことだ。」
アラはしばらく海を見た。
そして、ぎこちなく、頭を下げた。
キヨが初めて、声を出して笑った。