第20章
サカリの噂
旅を始めて半年が経った頃、シンの故郷の村の噂を聞いた。
旅の商人が言った。
「あの辺りの村に、随分と弁の立つ男が現れてな。
ニゴリという男と組んで、いくつかの村を扇動して回っているそうだ。
隣村との争いを煽り、その混乱の中で利を得ているという話だ。」
シンは静かに聞いていた。
商人が去った後、アラが言った。
「サカリだな。」
シンは頷いた。
キヨが言った。
「戻るか。」
シンは少し考えてから言った。
「まだだ。今の俺が戻っても、感情で動くだけかもしれない。
もう少し歩く。」
アラは言った。
「しかし村が危ない。」
シンは言った。
「分かっている。しかし乱れた心で帰っても、道は守れない。
マツが言っていた。怒りの火矢は、風向きが変われば自分を焼くと。」
三人は歩き続けた。
しかしその夜、シンは一人、長く起きていた。
心の中で、声が囁いた。
サカリを庇えば、まだ間に合うかもしれない。
サカリは元は良い奴だった。少しだけ目をつぶれば。
少しだけ。
その言葉が、頭の中で何度も回った。
アラが起きてきた。
「眠れないのか。」
シンは言った。
「サカリを信じたい自分がいる。
少しだけ、あいつのやっていることを見逃せば、友のままでいられるかもしれない。」
アラは言った。
「少しだけ、か。」
シンは黙った。
アラは火をいじりながら言った。
「少しだけ根を売った木は、嵐の日に倒れる。」
シンは寝ずに朝を迎えた。
しかし朝になったとき、妥協の声は消えていた。