第15章
旅の始まり
三人は山を越え、川を渡り、知らない土地へ入った。
最初の夜、野宿をしながらアラが言った。
「どこへ向かうのか。」
シンは言った。
「決めていない。」
アラは笑った。
「それは旅と言えるのか。」
シンは言った。
「マツは一度だけこう言った。目的地を決めた旅は、目的地しか見えない。道そのものを見るには、歩きながら決めていくしかない、と。」
アラはしばらく黙ってから言った。
「お前はマツの言葉をよく覚えているな。」
シンは言った。
「少ししか言わなかったからだ。少ない言葉は、深く刺さる。」
キヨは火を見ながら、何も言わなかった。
しかしその夜、キヨは一番遅くまで起きていた。
翌朝、シンは一人で先に歩き始めた。
振り返らなかった。
村の作法も、マツの教えも、忘れたかった。
ただ自由でいたかった。
アラとキヨが追いついたとき、シンは道端に座っていた。
アラが言った。
「なぜ先に行った。」
シンは言った。
「自由に歩きたかった。誰にも合わせず、好きな方向に。」
アラは黙った。
その日、三人はバラバラに歩いた。
夕方になって、合流できなかった。
シンは道を間違え、川沿いで一人、夜を過ごした。
翌朝、アラとキヨが見つけてくれた。
アラが言った。
「自由だと言いながら、息苦しそうだぞ。」
シンは言い返せなかった。
自由に歩いたはずなのに、ただ迷っていただけだった。
キヨが言った。
「行き先が要らないのと、仲間が要らないのは、違う。」
シンはその言葉を飲み込んだ。
三人はまた、一緒に歩き始めた。