第7章

最初の試練

春になった頃、村に一人の男が来た。

ニゴリという男だった。

ニゴリは声が大きく、話が上手く、人を引きつける力があった。
村人たちはすぐに集まった。

ニゴリは言った。
「隣村の者たちが、この村の水を奪っている。このままでは村が干上がる。立ち上がれ。」

村人たちはざわついた。

シンは静かに聞いていた。
そして聞き終えてから言った。
「隣村が水を奪っているとは、どこで知ったのか。」

ニゴリは言った。
「皆が言っていることだ。」

シンは言った。
「皆が言っていることが、事実とは限らない。確かめたのか?」

ニゴリは顔色を変えた。
「お前は村の敵か!村を守ろうとする者の魔をするな!」

村人たちの目がシンに向いた。

シンは乱れなかった。

「俺は村を守りたい。だからこそ、確かめてから動くべきだと言っている。
怒りで動いた者が、後から取り返しのつかない過ちを犯すことがある。
まず確かめよ。それからだ。」

広場は静かになった。

ニゴリは笑った。
「臆病者め。」と言って、支持者たちと去っていった。

その夜、シンは一人で川に行った。
手が震えていた。
怒りが内側で渦を巻いていた。

ニゴリの言葉が頭の中で何度も繰り返された。
臆病者。
その言葉が、胸の奥を焼いた。

シンは川岸の石を拾い、力の限り水面に投げつけた。
また拾い、投げた。何度も投げた。
石が水を叩くたびに、自の中の何かが削れていくのが分かった。

水は何も変わらなかった。
石だけが、削れていった。

翌朝、アラがシンの手を見て言った。
「手が切れている。どうしたんだ?」

シンは言った。
「怒りをどこへ置けばいいか分からなかった。」

アラは手を見て、何も言わなかった。
しばらくして言った。
「俺も同じだ。」

それだけだった。