第8章

アラとマツ

最初の試練があった翌日のことである。

アラはシンの手の傷を見てから、ずっと考えていた。
あの方法で、怒りはどこへいくのか。
石を投げて何になる。
しかしアラも同じことをしていた。

夕方、アラは一人でマツの庵を訪ねた。
シンには言わなかった。

庵の前に立つと、中から声がした。
「入れ。」

まだ声もかけていなかった。
アラは驚いたが、黙って入った。

マツは囲炉裏の前に座り、炭をいじっていた。
アラを一度見て、また炭に目を戻した。

しばらく黙っていた。

アラは言った。
「俺は故郷で、一人を殴った。怪我をさせた。だから出てきた。」

マツは炭を見たまま言った。
「その者は何をしていた。」
「弱い者を痛めつけていた。」
「お前は止めたのか。」
「止めた。しかし、やりすぎた。」

マツは少し間を置いた。
「お前が悔しいのは、殴ったことか。やりすぎたことか。」

アラは答えられなかった。

マツは言った。
「怒りを持つ者と、怒りに持たれる者がいる。その差は、紙一枚だ。」

アラは何も言わなかった。
しかしその言葉を、骨の奥にしまった。

帰り際、マツが言った。
「また来い。」

アラは振り返らずに答えた。
「来るかもしれない。」