第31章
ニゴリの末路
翌日、ニゴリは村を去った。
誰かが追い出したわけではなかった。
ただ、村人たちの目が変わった。
恐れではなく、静かな見極めの目になった。
その目の前では、ニゴリの言葉は力を持てなかった。
ニゴリは朝早く、荷をまとめて出ていった。
見送る者はいなかった。
アラが言った。
「あっけないな。」
シンは言った。
「邪なるものは、こちらが乱れないと決まれば、居場所がなくなる。
戦って倒すより、乱れないことの方が強い。」
キヨが言った。
「しかしニゴリは別の村へ行くだろう。」
シンは頷いた。
「そうだ。だから経典が必要だ。
どの村にも、手口を知っている者が一人いれば、ニゴリは力を持てない。
俺たちがすべきことは、ニゴリを追うことではない。
道を広めることだ。」
三人は黙って、村を見渡した。
村の空気が、少し変わっていた。
まだ傷は残っていた。
しかし傷は、清めれば器になる。
シンはその言葉を口にして、ふと立ち止まった。
マツが逝った後、自分は割れた器だと思った。
三日間動けなかった。
もう元には戻らないと思った。
しかし今、分かった。
あのとき割れたのではなかった。
あのとき入ったひびが、旅の中で一つずつ金で継がれていた。
町で騙された恥が、一本の金になった。
怒りのまま動いた後悔が、一本の金になった。
キヨの言葉が、アラの沈黙が、出会った人々の重さが、すべて金になった。
割れる前より、深い器になっていた。
シンは村を見渡した。
村もまた、割れた器だった。
しかし継げる。
丁寧に、一つずつ。