第29章

村の広場

五日後、ニゴリが村人を広場に集めた。

シンが妨害していると言った。
村の和を乱す者がいると言った。
名指しこそしなかったが、皆にはわかった。

村人たちは集まった。
ニゴリの言葉に頷く者もいた。
黙って下を向く者もいた。

シンは広場の端に立っていた。

ニゴリはシンを見て言った。
「この村に、外から戻ってきた者がいる。
旅の間に、何を学んできたのか知らない。
しかしこの村のことも知らぬまま、村の決め事に口を出している。」

村人たちの視線がシンに向いた。

シンは広場の中央へ歩いた。

乱れなかった。怒らなかった。

シンは言った。

「皆に聞く。この一年で、村は良くなったか。」

広場が静かになった。

「田畑の実りは増えたか。子供たちの顔は明るくなったか。
隣村との関係は、良くなったか。」

誰も答えなかった。

シンは続けた。

「恐れは人を動かす。しかし恐れで動いた者は、恐れが消えたとき止まる。
恐れを作り続ける者は、恐れがなくなると困る。
だから恐れを作り続ける。
皆、よく考えてほしい。
この一年、恐れは増えたか。減ったか。」

広場はしんと静まった。

ニゴリが叫んだ。
「戯言を言うな。お前は村の敵だ。」

シンはニゴリを見た。
静かに、しかし明確に言った。

「私は村の敵ではない。
しかしあなたは、村の友でもない。
あなたが村のために動いているなら、一つだけ答えてほしい。
あなたはこの村で、何を得ているのか。」

ニゴリは答えなかった。

村人たちは、ニゴリを見た。
ニゴリはまだ何かを言おうとしていた。
しかし言葉が出なかった。

その沈黙が、全てを語った。

広場が散った後、若い村人がシンに聞いた。
「どうすればいい。教えてくれ。」

シンは答えを言いかけた。
しかし止まった。

旅先の貧しい村のことを思い出した。
あの時、全部をやってあげようとした。
キヨに「お前がやれば、次もお前を待つ」と言われた。

シンは若者に言った。
「俺に聞くな。お前が見たものを、お前の言葉で言え。」

若者はしばらく黙ってから言った。
「ニゴリは、村のためには動いていない。」

シンは頷いた。
「それがお前の答えだ。それを、自の口で皆に言え。」

若者は怯えた顔をしたが、翌日の広場で、自分の言葉で話した。
たどたどしかったが、自分の言葉だった。

答えを与える者は、もう一つの頼り先を作るだけだ。
問いを置いて待つ者だけが、人を立たせることができる。