第3章

マツとの出会い

シンが十八になった春のことである。

山の中で薪を集めていたとき、一人の老人に出会った。
老人は大きな石の上に座り、何もせずにただ山を見ていた。

シンは声をかけた。
「何をしているのか。」

老人は振り向かずに言った。
「見ている。」

「何を。」

「山が、今日どんな顔をしているか。」

シンには意味がからなかった。
しかし何故か、その場を離れられなかった。

老人の名はマツといった。
どこから来たのか、どこへ行くのか、誰も知らなかった。
ただ、山の近くに小さな庵を建て、静かに暮らしていた。

シンはその日から、時折マツのもとを訪ねるようになった。

シンはある日、マツに聞いた。
「なぜ誠実に生きる者が苦しむのか。」

マツは少し考えてから言った。
「それは苦しみか。それとも重さか。」

シンは答えられなかった。

マツはそれ以上、何も言わなかった。
シンは家に帰り、その夜ずっと考えた。
苦しみと重さは、違うのか。
違うとすれば、何が違うのか。

次にマツを訪ねたとき、シンは言った。
「苦しみは、嫌なものだ。重さは、引き受けられるものかもしれない。」

マツは静かに笑った。
「もう一度、山を見てみろ。」

シンは山を見た。
山は何も言わなかった。
しかし以前と、少し違って見えた。