第12章

マツの教え

シンは翌日、マツのもとへ行った。

「友が道を外れようとしている。どうすればいいか。」

マツは川を見ながら言った。
「止められると思うか。」

シンは言った。
からない。」

マツは言った。
「川の流れは、止められない。しかし川岸に立つことはできる。
友が外れたとき、戻れる場所として、そこに立っていることができる。
それが友にできることの、全てかもしれない。」

シンは聞いた。
「見ているだけでいいのか。」

マツは言った。
「見ているだけ、と言うな。そこに立ち続けることは、最も難しいことの一つだ。」

シンはしばらく川を見た。

そしてマツに言った。
「マツの言葉を、全て覚えた。一つも落とさぬよう、毎晩繰り返している。」

マツはシンを見た。
少し悲しそうな目だった。

「シン。お前は私の言葉を持ち歩いているだけだ。」

シンは黙った。

マツは続けた。
「言葉は地図に似ている。地図を持つことと、道を歩くことは違う。
私の言葉を暗唱する暇があるなら、自分の足で一歩歩け。
一歩歩いて感じたことは、百の言葉より重い。」

シンは反論したかった。
しかし言葉が見つからなかった。
マツの言葉を暗唱していたはずなのに、自分の言葉が一つもなかった。

水は流れていた。
止まらなかった。
しかし川岸は、そこにあり続けていた。