第17章
町の男
大きな町に入った。
町には人が溢れ、声が溢れ、匂いが溢れていた。
シンは最初、その騒がしさに圧倒された。
町の中心に、一人の男が立っていた。
男は声高に何かを叫んでいた。
人々が集まっていた。
聞いてみると、男は言っていた。
「隣国の者たちがこの町を狙っている。今こそ立ち上がれ。力を合わせろ。」
人々はざわついていた。
シンはある男に聞いた。
「あれは何者か。」
男は言った。
「この町で一番力のある商人だ。最近、商売がうまくいっていないと聞く。」
シンは壇上の男を見た。
声は大きかった。言葉は美しかった。
しかし目が、言葉と違うことを言っていた。
アラがシンの耳元で言った。
「ニゴリに似ているな。」
シンは頷いた。
「どこへ行っても、同じ者がいる。」
その日の夕方、別の男がシンに近づいた。
穏やかな顔で、低い声で話しかけた。
「旅の者か。泊まる場所がないなら、うちを使え。代わりに明日、少し手伝ってほしいことがある。」
シンは恩を感じた。
翌日、男について行った。
男は言った。
「この荷を、あの蔵まで運んでくれ。」
荷は重かった。しかし約束だった。
シンは運んだ。
運び終えると、男は言った。
「もう一つ頼みがある。」
シンは断ろうとした。しかし男は困った顔をした。
「昨夜の宿代もある。恩知らずとは思われたくないだろう。」
シンは黙って、もう一つの荷を運んだ。
三日目も同じだった。
四日目、アラがシンの腕を掴んだ。
「もういい。お前は使われている。」
シンは気づいた。
善意につけ込まれていた。
恩と義理を盾にされ、断れなくなっていた。
キヨが言った。
「お前は乱された。乱されたから負けた。
邪なものは、怒りだけで来るのではない。
善意の顔をして来ることもある。」
シンはキヨの言葉を、腹の底に置いた。