第25章

帰郷の決意

旅を始めて一年が経った冬の朝、シンは言った。

「帰る。」

アラは聞かなかった。
キヨも聞かなかった。

二人とも、かっていたからである。

三人は来た道を戻り始めた。
行きと同じ道だったが、見える景色が違った。

あの貧しい村を通ったとき、水路が新しくなっていた。
老人が手を振った。子供が走ってきた。

アラは黙って頷いた。

帰路の途中、小さな山の村に一晩泊めてもらった。

その村では、夜になっても囲炉裏の火を消さなかった。
シンの村では、夜は火を消すのが作法だった。

シンは村の老人に言った。
「夜は火を消した方がよい。山の神への敬意であり、火事を防ぐ知恵でもある。」

老人は穏やかに言った。
「ありがたい忠告だが、この村では火を絶やさないことが繁栄の証だ。
昔からそうしてきた。」

シンは引き下がれなかった。
「しかし危険だ。我々の村ではこうしている。こちらの方が正しい。」

老人の顔が少し曇った。
「よそ者に正しさを決められる合いはない。」

空気が冷えた。
三人はその夜のうちに村を出た。

キヨが暗い道を歩きながら言った。
「ここにはここの作法がある。お前の正しさは、ここでは正しくない。」

シンは口を開きかけたが、閉じた。
自分が良かれと思ったことが、相手を怒らせた。
善意であっても、作法を押し付けることは、敬意の欠如だった。

川沿いの女の村を通ったとき、女が畑に出て働いていた。
子供たちが横で泥だらけになっていた。
女はシンたちを見て、深く頭を下げた。

シンは頭を下げ返した。

キヨが言った。
「この旅は無駄ではなかった。」

シンは言った。
「まだ終わっていない。」

故郷の山が見え始めた頃、シンは立ち止まった。

山は変わっていなかった。
しかしシンは変わっていた。

一年前、この山を見ていたシンは、怒りと迷いの中にいた。
今のシンには、まだ怒りがあった。
しかし怒りの下に、深い根があった。

シンは山に向かって、小さく頭を下げた。

アラがまた笑った。
「また頭を下げている。」

シンは言った。
「帰ってきたからだ。」

三人は村へ向かって歩き始めた。