変わらぬ者への道
一月後、カゲは変わっていなかった。
共同作業にまた来なかった。
借りた物をまた返さなかった。
指摘されるたびに困った顔をして、翌日には笑顔で現れた。
村人たちはシンのところに来て言った。
「どうすればいいのか。追い出すわけにもいかない。」
シンは村人たちを集めた。
「カゲを追い出すことが目的ではない。
この村の作法を、皆で改めて確かめることが必要だ。
共同作業に参加しない者は、収穫の分配に加われない。
借りた物は七日以内に返す。返せない場合は一言言う。
これを村の決め事として、皆で決めよう。
カゲのためではなく、この村のための決め事として。」
村人たちは頷いた。
決め事は、皆の前で言葉にされた。
カゲも、その場にいた。
カゲは笑顔で「もちろんだ」と言った。
アラがシンの耳元で言った。
「あいつ、また同じことをするぞ。」
シンは言った。
「するかもしれない。しかし次に同じことをしたとき、村には言葉がある。
言葉がある村は、その言葉で静かに動ける。
感情ではなく、決め事で動ける。それが大事だ。」
その後、カゲは少し変わった。
完全にではなかった。
しかし村の目が変わったことを、さすがに感じたようだった。
シンは思った。
変えることが目的ではない。
村が振り回されないことが、目的だったのだと。
ふと、旅の最初の日のことを思い出した。
一人で先に歩き、道に迷い、川沿いで夜を過ごした日のことを。
あの時、自由とは誰にも縛られないことだと思っていた。
しかしそれは違った。
自由とは、自分で選んだ方向へ進む力のことだった。
その力は、責任を引き受けることでしか生まれなかった。
カゲは村人に「自由に生きろ、作法に縛られるな」と言っていた。
旅の最初の日のシンと、同じことを言っていた。
責任のない自由は、ただ流されているだけだ。
あの日、シンは一人で流されて、迷った。
今、カゲも同じところに立っている。