第34章

鏡を差し出す

ある日、シンはカゲに話しかけた。

「カゲ、少し話せるか。」

カゲは笑顔で言った。「もちろんだ。」

シンは静かに、しかし明確に言った。

「共同作業に来ていない日が続いている。
農具を借りたまま返っていないものがある。
これは事実として確かめた。」

カゲはすぐに、困った顔をした。
「体の調子が悪い日があって。農具は本当に忘れていた。悪気はなかった。」

シンは言った。
「悪気があるかどうかは聞いていない。
事実として、村の作法に沿っていないことがある。
それだけを伝えている。」

カゲは少し黙ってから、しょんぼりした顔で言った。
「お前にそんな風に思われていたとは思わなかった。悲しいな。」

シンは乱れなかった。

「悲しむ必要はない。ただ、作法を守ってほしい。それだけだ。」

カゲは「かった」と言って去った。

アラが後から言った。
「なんか、こちらが悪いみたいな空気になったな。」

シンは言った。
「それがこの者の手口だ。意識的かどうかは分からない。
しかしこちらが感情的になった瞬間、話が変わる。
だから事実だけを言った。それだけだ。」

キヨが言った。
「変わると思うか。」

シンは少し間を置いてから言った。
「変わらないかもしれない。しかし言わなければ、村人たちが沈黙を続ける。
沈黙は、この者を増長させる。」

アラが言った。
「お前、三日前に同じことに気づいていたな。すぐに言いに行かなかったのはなぜだ。」

シンは言った。
「昔、サカリに怒りのまま正しいことを言ったことがある。
正しかったが、伝わったのは怒りだけだった。
あの夜から、取り返しがつかなくなった。」

アラは言った。
「だから三日待ったのか。」

シンは頷いた。
「怒りが燃えている間は、風向きが読めない。
三日待って、怒りが静まってから、事実だけを置いた。
感情で語れば、相手は道の話ではなく感情の話にする。
感情の話にした者が、負ける。」