第10章

怒りの行方

シンはある日、マツに問うた。

「怒りを手放すとは、どういうことか。」

マツは聞き返した。
「手放したいのか。」

シンは少し考えた。
からない。怒りは苦しい。しかし怒りがなければ、俺は何も動けなかった。」

マツは頷いた。

「怒りを手放す、と思うな。」

シンは聞いた。
「では、どうする。」

「怒りはお前の一部だ。押し込めようとすれば、別のところから出てくる。手放そうとすれば、余計に掴んでしまう。」

「では、どうすれば。」

マツはしばらく黙った。
それから言った。
「怒りが来たとき、まずそれが何のための怒りかを聞け。怒りはたいてい、大切なものが傷つけられたときに出る。大切なものが何かを知れば、怒りの向こうに道が見える。」

シンは繰り返した。
「怒りの向こうに。」

「そうだ。怒りに押し流されるのではなく、怒りを手に持って歩く。その違いだ。」

その夜、シンは初めて怒りを眺めるように、自分の内側を見た。
大切なものが、そこにあった。