第1章

生まれ

シンは山の麓の小さな村に生まれた。

父は農夫で、口数が少なく、毎朝暗いうちから畑に出た。
母は病がちで、シンが十になる前に逝った。
裕福ではなかった。しかし飢えるほどでもなかった。

村には五十ほどの家があった。
皆が顔を知っており、皆が互いの事情を知っていた。
それが窮屈でもあり、温かくもあった。

シンは子供の頃から、怒りっぽかった。

不公平なことが許せなかった。
力の強い者が弱い者を踏むことが、許せなかった。
正しいことを言った者が損をすることが、許せなかった。

しかしその怒りをどこへ向ければいいか、シンは知らなかった。
怒りは行き場を失い、シン自身の内側を焼いた。

幼なじみにサカリという男がいた。
サカリは頭が良く、弁が立ち、いつも笑っていた。
村人たちに好かれていた。
シンはサカリのそばにいると、自の怒りが少し静まった。

もう一人、キヨという女がいた。
キヨは滅多に口を開かなかった。
しかしキヨが何かを言うとき、それはいつも的を射ていた。
シンはキヨの言葉が好きだったが、それを口にしたことはなかった。

シンが十五になった年、父が倒れた。

畑仕事は全てシンが引き受けた。
学ぶ時間も、遊ぶ時間も、消えた。
その年の冬は長く、寒かった。

シンは夜、暗い囲炉裏の前で思った。
なぜ誠実に生きる者が、こんなに苦しいのか。
なぜ真っ当に働く者が、報われないのか。

答えは出なかった。
問いすら、まだ形を持っていなかった。