その後にシンが言ったこと
アラが言った。
「あっけなかったな。もっと揉めると思っていた。」
シンは言った。
「感情でやれば揉めた。筋でやったから、揉めなかった。
怒りで追い出した者は、後ろめたさが残る。
筋で送り出した者は、後ろめたさがない。
それが道としての追放と、感情としての追放の違いだ。」
キヨが言った。
「ガルは悪い者だったのか。」
シンは少し考えてから言った。
「悪い者かどうかは分からない。
ただ、この村の作法と合わなかった。
それだけだ。
ガルには、ガルの作法に合う場所があるかもしれない。
この村でなかっただけだ。」
村人の一人が言った。
「もっと早く追い出せばよかったという気もする。」
シンは言った。
「段階を踏んだことに意味がある。
すぐに追い出していれば、村人の中に迷いが残った。
本当によかったのか、という迷いが。
段階を踏んだから、全員が納得した上で決められた。
その納得が、村の根を強くする。」
老婆が言った。
「ガルのような者がまた来たら、どうする。」
シンは言った。
「同じようにする。
受け入れ、示し、警告し、決める。
この順番が、道としての追放の筋だ。
この順番を村が覚えていれば、次はもっと静かにできる。」
広場は静かだった。
しかし以前より、根が深い静けさだった。
アラがさらに言った。
「もし怪我人が出ていたら、どうしていた。」
シンは迷わず言った。
「段階など踏まなかった。その日のうちに村として追放を決めた。
それでも出ていかなければ、力ずくで送り出していた。」
アラは言った。
「それは道に反しないのか。」
シンは言った。
「道は、やられ続けることを求めない。
段階を踏むのは、判断を誤らないためだ。
しかし村人が傷ついている間も段階を踏み続けることは、
判断の慎重さではなく、ただの臆病だ。
被害を止めることが先で、追放の手順はその後だ。
その順番を間違えてはならない。」
アラは黙って頷いた。
しばらくして、アラが言った。
「お前の言葉は、マツに似てきたな。」
シンは首を振った。
「似ていない。マツの言葉は、マツの道から出た言葉だ。
俺の言葉は、俺の道から出ている。」
アラは聞いた。
「マツの教えは、どうした。」
シンは少し考えてから言った。
「マツの教えは地図だった。
しかし俺は地図の通りに歩いたのではない。
地図を持ちながら、自分の目で見て、自分の足で確かめた。
地図と違う場所があった。橋がないはずの場所に橋があり、道があるはずの場所に道がなかった。
そのたびに、自分で渡り方を探した。」
キヨが言った。
「若い頃のお前は、マツの言葉を一字一句覚えようとしていた。」
シンは笑った。
「覚えていたが、何も分かっていなかった。
自分の足で歩いて、転んで、迷って、ようやく分かった言葉がある。
自分の足で確かめたものだけが、本当の道になる。」
空が暮れ始めていた。
三人は黙って、山を見た。